神戸地方裁判所 昭和58年(ワ)738号 判決 1985年3月13日
原告
橋本章
ほか二名
被告
株式会社第一食品
ほか一名
主文
一 被告らは、(1)各自原告橋本章に対し、金二二七万三二三一円、及びその内金二〇九万三二三一円については昭和五八年四月二五日から、内金一八万円については昭和六〇年三月一四日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を、(2)各自原告橋本嘉文、同橋本彰文に対し、各金一一四万六六一五円、及びその各内金一〇四万六六一五円については昭和五八年四月二五日から、各内金一〇万円については昭和六〇年三月一四日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
二 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告橋本章に対し、金七五九万八六七三円及び、その内金六九四万八六七三円については昭和五八年四月二五日から、内金六五万円については判決言渡の翌日から支払済迄年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは各自原告橋本嘉文に対し、金三七九万九三三六円及びその内金三四七万四三三六円については昭和五八年四月二五日から、内金三二万五千円については判決言渡の翌日から支払済迄、年五分の割合による金員を支払え。
3 被告らは各自原告橋本彰文に対し、金三七九万九三三六円及びその内金三四七万四三三六円については昭和五八年四月二五日から、内金三二万五千円については判決言渡の翌日から支払済迄、年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
5 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
被告岡本和也(以下岡本という)は、昭和五七年六月二六日午後二時三〇分頃、普通貨物自動車(以下岡本車という)を運転し、神戸市兵庫区門口町一番一〇号地先路上の国道二号線上、東行車線の四車線のうち、道路の最中央寄り車線を東進中、右番地先の横断歩道上を自転車で、南進中の橋本敏代(当時五〇歳)(以下敏代という)に衝突し、同人を転倒せしめ、同人に脳挫傷、頭部外傷、胸部外傷を与えこのためクモ膜下出血を起こし、敏代はいわゆる植物人間の状態になり、入院中の処、昭和五八年四月二四日死亡したものである。
2 相続関係
原告らは敏代の相続人で、原告橋本章(以下章という)は夫として二分の一、同橋本嘉文(以下嘉文という)、同橋本彰文(以下彰文という)は子として各四分の一の、各相続分を有する。
3 被告らの責任
(一) 本件事故は、被告岡本が、前記道路を時速約五〇キロメートルの速度で進行中、前方注視、一時停止業務を怠り、敏代に衝突せしめた過失により発生したものであるから、同被告に不法行為責任がある。
なお、本件事故発生当時、本件東行四車線中、他の三車線には各車線に他の自動車三台がいたが、何れも横断路の手前で停車しており、同被告の車両のみが進入し本件事故が発生したのである。
(二) 被告株式会社第一食品(以下被告会社という)は、岡本車の保有者であり、被告岡本の使用者で、且つ被告会社の業務のため運転中発生したものである。よつて被告会社は自動車損害賠償保障法上の運行供用者、及び民法上の使用者の各責任を負うべきである。
4 損害
(一) 治療費
治療費の支出については、国民健康保険を利用し、本人負担部分を次の通り支出した。
市民病院 金一二七万二三〇五円
(57・6・26―57・11・15)
井上外科 金 四万三九九〇円
(57・11・15―57・11・19)
兵庫医大 金 八五万四九六〇円
(57・11・19―58・2・15)
金沢病院 金一五七万四一九〇円
(58・2・15―58・4・24)
合計 金三七四万五四四五円(三〇三日間入院)
(二) 付添費
敏代は本件事故により、いわゆる植物人間となり、付添看護人二名を要した。
しかし、市民病院入院中の昭和五七年六月二六日から一一月一四日迄の一四二日間(但し一一月一五日は井上外科へ転院日)は、完全看護システムのため実際の付添人は一名だつた。
右市民病院入院中の一名の付添は、六月二六日から八月五日までの四一日間親族の付添一名、八月六日から一一月一四日迄の一〇一日間職業付添人一名を要した。
その後の昭和五七年一一月一五日から五八年四月二四日迄の一六一日間は職業付添人を二名要した。
付添費用は次の通りである。
漣照子(親族付添人) 金一二万三〇〇〇円
算式 1日3,000円 41日間 3,000×41=123,000
高嶋保子外四名(職業付添人) 金三五四万二二八〇円
合計 金三六六万五二八〇円
(三) 休業損害
敏代は旧制高等女学校(旧中)を卒業し、原告章の妻として家事家業に従事していたが、本件事故の為三〇三日間入院し、その間稼働不能となり当時五〇歳であつた。その当事五〇歳の女子平均賃金は、昭和五七年の賃金センサス第一巻第一表の産業計企業規模計女子労働者旧中卒五〇歳から五四歳のきまつて支給される月平均給与額は(以下センサス給与月額という)、金一七万一九〇〇円、年間賞与その他の特別給与額は金五六万一四〇〇円となり、これを計算すれば年間二六二万四二〇〇円となる。更に右を基礎として算出すれば金二一七万八四四五円となり、敏代は休業中少なくとも右金額と同等の損害を受けた。
算式 2,624,200×303/365=2,178,445
(四) 入院中の慰謝料
本件事故により重傷を負い、植物人間となり、三〇三日間約一〇ケ月入院した。この精神的損害としては金二二五万円が妥当である。
(五) 入院雑費
敏代は、三〇三日間入院し、その間少なくとも一日金一〇〇〇円の入院雑費を要したので、その合計は金三〇万三〇〇〇円となる。
(六) 逸失利益
敏代は死亡当時五一歳の主婦であり、死亡時の昭和五八年センサス給与の月額は金一七万六一〇〇円、年間賞与その他の特別給与額は金五五万四〇〇〇円となる。これを計算すれば年間二六六万七二〇〇円となる。更に右年収を基礎として本人の生活費三〇%を控除し、六七歳迄の一六年間就労可能とし、これにホフマン係数一一・五三六に直し逸失利益を算出すると金二一五三万八一三七円となり、敏代は本件事故死によつて少なくとも右金額と同等の損害を受けたこととなる。
算式 2667.200×0.7×11.536≒21.538.137
(七) 葬儀費用
敏代の実際の葬儀費用は、合計金一〇四万円を要し、最新の資料及社会慣習により、このうち金九〇万円は被告らが負担すべきである。
以上本件事故により敏代が受けた損害は合計金三四五八万〇三〇七円となる。
5 損害相殺
敏代は、本件事故により、次のとおりの損害の填補を受けた。
被告会社 金二五八万七七五七円
同和火災 金三〇五万八八三八円
興和火災 金二〇〇〇万〇〇〇円
合計金二五六四万六五九五円
6 損害の相殺
右総損害額から損益相殺金二五六四万六五九五円を差引いた合計金八九三万三七一二円のうち
原告章は二分の一 金四四六万六八五六円
同嘉文は四分の一 金二二三万三四二八円
同彰文は四分の一 金二二三万三四二八円
をそれぞれ相続したものである。
7 原告らの慰謝料
敏代死亡に伴い原告らは、最愛の妻・母を失ないその精神的苦痛は最新の資料によれば次のとおりとなる。
原告章は 金六〇〇万円
原告嘉文は 金三〇〇万円
同彰文は 金三〇〇万円
合計 金一二〇〇万円
8 弁護士費用
本件訴訟を提起するにつき、原告らは、弁護士に依頼しその弁護士費用として金一三〇万円を要し、原告章は二分の一の金六五万円を、同嘉文は四分の一の金三二万五千円を、同彰文は四分の一の金三二万五千円を負担することを約した。
9 よつて原告らの損害は、弁護士費用をも含め、原告章合計金一一一一万六八五六円、同嘉文五五五万八四二八円、同彰文金五五五万八四二八円になり原告らは被告らに対し、右三名の損害合計金二二二三万三七一二円のうち金一五一九万七三四五円を、各自左記のとおり請求する。
(一) 原告章の分
金七五九万八六七三円、及び内金六九四万八六七三円については昭和五八年四月二五日から、内金六五万円については、判決言渡の翌日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金。
(二) 同嘉文、及び彰文の分
各各金三七九万九三三六円及び内金三四七万四三三六円については昭和五八年四月二五日から、内金三二万五千円については判決言渡の翌日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1項(事故の発生)の事実は認める。
2 同2項(相続関係)の事実な不知。
3 同3項(被告らの責任)のうち、被告らの不法行為責任は否認するが、被告会社が本件車両の保有者であることは認める。
4 同4項(損害)のうち、(一)の治療費については、市民病院分は金一二三万六三〇五円の限度で認め、井上外科分は不知、兵庫医大、金沢病院分はいずれも認める。(二)の付添費は認める。(三)の休業損害は不知。(四)の入院中の慰謝料は不知。なお本件は治療中に死亡したものであり、他に死亡慰謝料が算定される事情にあるから、治療により治癒するに至つたことを前提として算定される治療慰謝料が算定されるべきではない。特別に入院慰謝料は算定せず死亡慰謝料のみで考えられるべきである。(五)の入院雑費は不知。(六)の死亡による逸失利益は不知。(七)の葬儀費は金五〇万円の限度で認める。
5 同5項(損益相殺)の事実は認める。
6 同6項(損害の相続)は不知。
7 同7項(原告らの慰謝料)は不知。
8 同8項(弁護士費用)は不知。
三 抗弁
1 事故現場は片側三車線の広い幹線道路で、信号機により交通整理の行なわれている交差点であるが、被告岡本は青信号に従つて時速五〇キロメートルの速度で通過しようとしたところ、南北は赤信号であつたにもかかわらず、これを無視して自転車に乗つて横断しようとした敏代と衝突したものである。
従つて本件事故は、自転車に乗つていた敏代の信号無視が主たる原因をなしており、被告岡本には見るべき過失はなく、しかも事故当時加害自動車は構造上の欠陥も機能上の損傷もなかつたので、被告らに本件事故の賠償責任はない。かりに若干の過失があるとしても、被告岡本の過失が二割を超えることはないので、これに沿つた過失相殺がなされるべきである。
2 事故後両当事者は協定し、治療費については過失相殺をしないが、その余については過失相殺の対象とすることに合意した。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認する。
2 同2のうち、事故後両当事者が協定し、治療費については過失相殺をしない旨合意したことは認めるが、その余の事実は否認する。
第三証拠
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1項(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。
二 同2項(相続関係)の事実は、甲第二八ないし第三〇号証によつて認めることができる。
三 そこで事故の態様及び被告らの責任について検討する。
右争いのない事実に乙第一ないし第三号証、被告岡本和也本人尋問の結果によれば次の1ないし11の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。
1 本件事故現場付近の道路中央部は、阪神高速道路の高架下空地となつており、金網フエンスによつて東行車線と西行車線は完全に分離されていて、その各車線は、それぞれ幅員約一三・五メートルで、四車線に区分されている。
2 岡本は、被告会社の従業員であり、被告会社の仕事で岡本車を運転し、信号機の設置されている本件事故現場にさしかかつた。
3 本件事故現場には横断歩道があつて、東西車線を南北に横切つており、横断歩道の一部(東側)は自転車通行帯となつている。
4 岡本は東行四車線のうち、第四車線(南側中央寄り車線)を東進していた。
5 本件道路は時速五〇キロメートルに速度制限がなされており、被告岡本は時速約四〇ないし五〇キロメートルで東進していたが、本件事故現場東行きの信号機の表示が赤色であつたのを認めたので、横断歩道の約四〇メートル手前で減速したものの、約一六メートル余り進行した地点で右信号機の表示が赤色から青色に変つたのを認め、時速約二〇キロメートルからそのまま加速進行し、時速四〇ないし四五キロメートルで横断歩道に進入しようとした。
6 東行第三車線(岡本車の左隣り車線)には、大型トラツクを先頭に数台の車両が続き、第一、第二車線にもそれぞれ車両があつて、いずれも横断歩道手前で赤信号のため停車していたが、岡本車の前方には、横断歩道までの間に先行する車両は無かつた。
7 岡本車が、横断歩道直前に至つた際、岡本は、横断歩道上を、足踏み自転車に乗つて北から南に横断中の敏代を左前方約五・三メートルに認めたので、あわててブレーキをふんで衝突を避けようとしたが間に合わず、横断歩道北端から約一二・一五メートルの地点で自車前部を自転車に衝突させ、岡本車はスリツプ痕(右約七メートル、左約八・八メートル)を残し、約一四・三メートル進行して停止した。
6 岡本車が第三車線先頭に停車中の大型トラツクの横を追抜く際には、依然として右大型トラツクは停車していたままであつたから、そのため岡本車からの横断歩道左側の見通しは悪くなつており、岡本車が前記速度で進行している限り、かりに敏代が乗つている自転車を更に数メートル手前で発見しえたとしても、その衝突を避けることはできない位置関係にある。
9 岡本車の前記位置と速度関係からみて、前記信号が赤色から青色に変つたのを岡本が確認したときから、本件事故発生に至るまでには、二ないし三秒の間があつたことになる。
10 折から、西行車線上、本件横断歩道東側で信号待ちのため停車していた山元一二三は、西行き信号(東行き信号と同時作動)が赤色から青色に変つたので、発進のため右方の安全を確認しようとして右方を見たところ、本件事故の瞬間を目撃したが、右事故は、東西の信号が赤色から青色に変つて二ないし三秒後に起つた。
11 岡本車が従うべき東西の信号機は、青八五秒、黄四秒、赤五一秒であり、敏代が従うべき歩行者用の南北信号は、青四三秒、黄四秒、赤九三秒であつて、そのうち全赤が二秒となつているので、東西信号が赤色から青色に変る時点では、歩行者用の南北信号は、二秒前からすでに赤色になつていることになり、黄信号は四秒であるから、敏代が自転車に乗つて横断を開始した際には、その信号は青色であつた可能性は殆んどなく、また赤色であつたとすれば横断を中止していたものと考えられるから、敏代が横断を開始した時の信号は黄色であつて、横断途中で赤信号に変つたものと推測される。
以上の事実によれば、岡本が本件事故現場を通過するに際しては、同所に横断歩道が設置されていること、信号機も赤色から青色に変つてさほど時間が経過していないこと、左隣りの第三車線先頭に停車していた大型トラツクは、信号が青色に変つた後も停車したままであつたこと、などからして、横断歩道を歩行者ないし自転車が横断していることを予見すべく、また十分予見しえたものであつて、岡本には一時停止ないし除行義務が存したものというべく、これに違反して高速度で横断歩道に進入した岡本に過失があることは明らかであるから、被告岡本は民法七〇九条により、本件事故による損害を賠償する責任がある。
また、被告会社が岡本車の保有者であることは当事者間に争いがなく、被告会社は被告岡本の使用者であつて、本件事故は従業員である被告岡本の業務執行中の過失事故であるから、自賠法三条及び民法七一五条により同様の賠償責任があり、被告会社の自賠法三条但書の免責の主張は理由がない。
四 そこで損害について検討する。
1 治療費 金三七四万五四四五円
市民病院分は金一二三万六、三〇五円の限度で当事者間に争いがなく、甲第一四、一五号証によれば金一二七万二三〇五円(入院期間は昭和五七年六月二六日から同年一一月一五日まで)であることが認められる。
井上外科分は、甲第三一、三二号証によれば金四万三九九〇円(入院期間は昭和五七年一一月一五日から同月一九日まで)を超えることが認められる。
兵庫医大分金八五万四九六〇円(入院期間は昭和五七年一一月一九日から昭和五八年二月一五日まで)、金沢病院分金一五七万四一九〇円(入院期間は昭和五八年二月一五日から同年四月二四日まで)については当事者間に争いがない。
2 付添費 金三六六万五二八〇円
当事者間に争いがない。
3 休業損害 金二一七万八四四五円
前記争いのない事実及び甲第三四、三五号証及び原告橋本嘉文本人尋問の結果によれば、原告主張どおりの事実が認められ、これによれば、休業損害は金二一七万八四四五円と認めるのが相当である。
4 入院中の慰謝料 金二一六万円
前記諸事実から認められる敏代の受傷内容、治療経過等を考慮すると、敏代に生じた入院中の慰謝料は金二一六万円が相当である。(なお、敏代は治療中に死亡したものではあるが、かゝる場合であつても、入院中の精神的損害が敏代に生じていることは明らかであるから、死亡による慰謝料が認められるかどうかとは関係なく、入院中の慰謝料を認めてよい。)
5 入院雑費 金三〇万三〇〇〇円
入院期間が三〇三日間であることは前記認定のとおりであり、入院雑費は一日金一〇〇〇円が相当であるから、入院雑費は合計金三〇万三〇〇〇円となる。
6 死亡による逸失利益 金一八四六万一二九一円
敏代が昭和五八年四月二四日に死亡したことは当事者間に争いがなく、甲第二八号証によれば、敏代は死亡当時五一歳の主婦であり、死亡時の昭和五八年賃金センサスによつてその過失利益を算定するのが相当であるところ、甲第三六号証によれば、その月額は金一七万六一〇〇円、年間賞与その他の特別給与額は金五五万四〇〇〇円であり、その生活費控除分は四〇パーセントとみるべく、六七歳までの一六年間就労可能として逸失利益を算出すると、金一八四六万一二九一円となる。
(176,100×12+554,000)×(1-40/100)×11.536=18,461,291
7 葬儀費用 金五〇万円
甲第二五、二六号証によれば、葬儀費用として金一〇四万円を要したことが認められるが、そのうち金五〇万円の限度で本件損害と認めるのが相当である。
以上1ないし7を合計すると金三一〇一万三四六一円となる。
五 過失相殺
しかして、前記認定事実によれば、本件事故発生について被告岡本に過失があつたことは明らかであるが、他方敏代にも、黄信号を無視して横断を開始し、横断途中で赤信号に変わつたのに、東行車両がそのまま停車していたため横断を続け、道路中央部空地に至る直前で岡本車と衝突したのであるから、信号を無視した不注意があつたものというべく、本件損害賠償額の算定にあたつては、敏代の損害に三〇パーセントの過失相殺をするのが相当であるが、治療費については過失相殺をしない旨の合意が成立していることは当事者間に争いがないから、治療費を除いた前記損害について過失相殺をすると、その結果、損害額は金二二八三万三〇五六円となる。
3,745,445+27,268,016×(1-30/100)=22,833,056
六 原告ら固有の慰謝料
敏代死亡による原告ら相続人固有の慰謝料については、本件事故内容、敏代の年齢、性別、家庭状況その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮し、配偶者である原告章につき金三五〇万円、子である原告嘉文、同彰文につき各金一七五万円(合計金七〇〇万円)をもつて相当額と認める。
七 損害相殺
しかして、本件事故による損害のうち、金二五六四万六五九五円が填補されていることは当事者間に争いがないから、そのうち金二二八三万三〇五六円を前記敏代に生じた損害に充当し、その余の金二八一万三五三九円は、原告ら固有の慰謝料にその割合に応じて充当すると、敏代に生じた損害はすべて填補されたことになり、原告ら固有の慰謝料は、原告章につき金二〇九万三二三一円、原告嘉文、同彰文につき各金一〇四万六六一五円(合計金四一八万六四六一円)となる。
八 弁護士費用
本件事案の内容、訴訟経過、前記認容額等の諸事情を考慮し、原告章につき金一八万円、原告嘉文、同彰文につき各金一〇万円と認めるのが相当である。
九 以上を合計すると、原告章については金二二七万三二三一円、原告嘉文、同彰文については各金一一四万六六一五円(合計金四五六万六四六一円)となる。
一〇 結論
よつて、原告らの本訴請求は、被告らに対し、原告章について金二二七万三二三一円、原告嘉文、同彰文について各金一一四万六六一五円、及び原告章につき、内金二〇九万三二三一円については昭和五八年四月二五日から、内金一八万円については判決言渡の翌日である昭和六〇年三月一四日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告嘉文、同彰文につき、各内金一〇四万六六一五円については昭和五八年四月二五日から、各内金一〇万円については判決言渡の翌日である昭和六〇年三月一四日から各支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 寺田幸雄)